論文リスト
- [工学研究科研究成果データベース]
微生物を代表とする微小スケールの泳動体(マイクロスイマー)の分散系は,非平衡統計力学の代表的な適用対象として理学的な興味を持たれているほか,ドラッグデリバリーシステムとしての利用やアクティブ粘弾性流体の実現など,工学的な応用も期待されている.マイクロスイマー分散系では,個々のスイマーの運動方向を揃えるような協調メカニズムがなくとも,大域的に組織立った集団運動が発生し得ることが知られている.そうした集団運動は,スイマー間に働く複雑な流体力学的相互作用の帰結であり,粒子単体の運動の様子からは簡単には予測できないものである.我々は,マイクロスイマーの運動と周囲の流体の運動を,粒子と流体の連成問題としてコンシステントに高効率・高精度でシミュレーション可能な独自の数値計算手法を開発した.マイクロスイマーのシミュレーションを行う場合,既存の研究ではスクワマーモデルと呼ばれる球形粒子モデルが広く用いられており,我々もこれを用いている.マイクロスイマーは,泳動時に周囲に作り出す流れ場の特徴から,Pusher型とPuller型,及び両者の中間に位置するNeutral型の三つの泳動形態に大別されるが,スクワマーモデルでは後述するモデルパラメータの値を変化させることにより,これらの泳動形態を自由に模擬することができる.本研究室では,平行平板間で発生するマイクロスイマーの特異な集団運動や,複雑流体中でのマイクロスイマーの運動,回転運動(rotlet)をあらわに考慮したマイクロスイマーの直接数値計算を実施している.
我々はコロイド分散系に対して有効なメソスケールのシミュレーション手法を開発し,KAPSEL [http://sm.cheme.kyoto-u.ac.jp/kapsel/]として一般公開した。その後,理論的な解析の難しかった荷電コロイド系の電気泳動,レイノルズ数が高い領域(Re≦1,000)での粒子運動,溶媒に圧縮性がある場合の粒子間の運動量輸送などの諸問題に応用できるように拡張し,それらの系の基礎研究に取り組んで大きな成果を挙げた。最近では,バクテリアやクラミドモナスなどの水中を自己泳動する微生物の運動にも研究対象を広げ,それらを模した自己推進粒子の直接数値シミュレーションを行い,特異な共同運動を予見した。
より高機能な高分子製品を製造するためには,成形加工の段階で高分子溶融体(高分子流体)の流動を予測し制御する必要がある.しかし,分子量分布や多様な分岐構造を有する任意の高分子流体の流動を予測することは,一般的に言って容易ではない.なぜなら,流体を構成する高分子鎖の配向やからみ合いなどのミクロスケールの構成要素の特徴が,マクロスケールの流動に対して強く影響を及ぼすからである.そのようなマクロな流動挙動と高分子のミクロな状態というスケール間の関係をより詳しく扱うために,ミクロモデルとマクロモデルを相互に組み合わせるマルチスケールシミュレーション(MSS)法の確立が強く望まれている.MS そこで我々は,MSS法を様々な成形加工プロセスに応用する研究にチャレンジしている。
基板上を遊走する細胞が多数集まると非常に不思議な集団運動を示すことが知られているが、この過程は傷の治癒や腫瘍の成長とも大きな関係がある。我々は,このような自発的に運動する細胞集団に対して有効な力学的モデルを構築し,自己複製・自己組織化する細胞集団が示す特異なダイナミクスのメカニズムの解明に取り組んだ。