* これから実現したいこと [#x692af47]

*** 生体組織(Soft Tissue)の物理モデリング:[2013/06/13]: [#ea0ccf46]

最先端の医学・生物学が対象とする複雑な問題に対して、物理学的な視点からモデルを構築し、計算機シミュレーションで定量的に正しい予測が得られる日は来るでしょうか?現状の計算機とモデリング技術では全く歯が立ちませんが、そう遠くない未来にこれを実現できるように計算科学のフロンティアを常に前進させることには、大きな意義があると思います。
再生医療に代表されるような、最先端の医学・生物学が対象としている圧倒的に複雑な問題に対して、物理学的な視点からモデルを構築し、計算機シミュレーションで定量的に正しい予測が得られる日は来るでしょうか?もちろん、現状の計算機とモデリング技術では全く歯が立ちませんが、そう遠くない未来にこれを実現できるよう、計算科学のフロンティアを常に前進させることには大きな意義があると思います。

これまで我々が主たる研究対象にしてきたソフトマターや複雑流体(高分子・液晶・コロイド・ゲル・界面活性剤など)では、外力に対して受動的に応答する内部構造の影響、つまりミクロとマクロの受動的な結合を理解しモデル化することが主たる課題でした。一方、生体組織では、細胞分裂や細胞死などにより能動的に内部応力が発生し、自発的な組織の成長・修復・変形が長い時間スケールで起こります。また、細胞分裂や細胞死の起こる確率は、マクロな外力や変形に強く依存することが知られています。このようなミクロとマクロの能動的な結合を計算科学によって理解し制御しようとする試みはほとんど例がなく、我々が得意とするソフトマターや複雑流体に対するモデリング手法を発展させ、生体材料や生体組織に対して有効な手法を開発し、現実的な具体例への適用を目指したいと思います。
これまで我々が主たる研究対象にしてきたソフトマターや複雑流体(高分子・液晶・コロイド・ゲル・界面活性剤など)では、外力に対して受動的に応答する内部構造の影響、つまりミクロとマクロの受動的な結合を理解しモデル化することが主たる課題でした。一方、生体組織などでは、細胞分裂や細胞死などにより能動的に内部応力が発生し、自発的な組織の成長・修復・変形が長い時間スケールで起こります。また、細胞分裂や細胞死の起こる確率は、マクロな外力や変形に強く依存することも知られています。このようなミクロとマクロの能動的な結合を計算科学によって理解し制御しようとする試みはほとんど例がなく、我々が得意とするソフトマターや複雑流体に対するモデリング手法を発展させ、生体材料や生体組織に対して有効な手法を開発し、現実的な具体例への適用を目指したいと思います。


*** マルチスケールシミュレーションの実現:[2006/10/01]: [#h62898a3]

計算機シミュレーションの発展は計算機ハードウェアの性能向上と密接に関わっています.90 年代の後半以降,アメリカ製のCPU を用いた(超) 並列マシンが高性能計算機の世界を圧巻していますが,スーパーコンピュータの分野では日本も負けていません.2002年に完成した当時世界最速のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の登場はエポックメーキングな出来事として記憶に新しいですが,2012 年の完成を目指して地球シミュレータの250 倍以上の性能を持つ次世代スーパーコンピュータの開発がすでに始まっています.この様な計算機能力の急速な拡大が,科学における計算機シミュレーションの位置づけに質的な変化をもたらすであろうことは予想に難くありません.

計算機ハードウエアの性能向上が著しいとはいえ,依然として大規模分子シミュレーションでは全く歯が立たない問題も数多く存在します.大雑把な見積もりですが,例えば,たった1モルの分子を1 秒間シミュレーションすることを想定しても,地球シミュレータを1 人で占有して10^20 年という途方もない計算時間が必要となります.コンピュータの速度が約5 年で10 倍速くなると言うムーアの法則が今後も頭打ちなしにずっと続くと仮定しても,そのような計算を現実的な計算時間の範囲内で終える計算機の登場までには少なくともあと100 年は待たなければいけません.

分子サイズを大きく超えたメソ〜マクロスケールでは連続体シミュレーションが有効であり,これまで主に物質の細かい違いによらない普遍的な現象に対して基礎科学的な立場から利用され,成功を収めてきました.しかし,物質の化学的な個性に注目することの多い応用研究の立場では大きな問題に直面します.つまりこれまで連続体シミュレーションで用いてきた粗視化モデルに,分子構造などのミクロな情報を反映することが困難きわまりないのです.

粗視化モデルに物質の個性を取り入れることは,基礎科学の分野でも必要とされています.例えば,コロイド電解質溶液に塩を加えると,塩の種類によって同符号の荷電コロイド粒子間に働く力が引力にもなり得ることが知られています.これは構成物の微妙な個性の違いが,その集合体の性質に本質的な変化をもたらす好例といえますが,このような構成物の微妙な個性の違いが絡む問題をこれまでのシミュレーション法で扱うことは特に難しいのです.重要でありつつも,有効な解決手段がないまま長年放置されてきた問題がたくさんあります.

異なるシミュレーション手法を接続してこの問題を解決しようというのがマルチスケールシミュレーションの考え方で,同様の問題意識は複雑流体やソフトマターにとどまらず計算科学の最先端に普遍的に存在しています.物質科学・材料科学の分野では,物質の化学的な個性を重視する量子化学計算や分子動力学計算などの化学系の計算と,物質や現象の普遍性を抽出してモデル化する粗視化モデリングなどの物理系の計算がそれぞれ発展してきた背景があります.相互の接続は原理的に可能であると考えられているものの,境界領域であるために系統的な検討はほどんど行われていないのが現状です.必要であると認識されつつも放置されてきた問題であり,本格的な取り組みは今後の大きな課題となっています.

2012年3月までの約5年間,JSTのCREST研究「マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション」領域の一環として,山本(京都大),泰岡(慶應大),増渕(京都大),谷口(京都大)の4名を中心に「ソフトマターの多階層/相互接続シミュレーション」なるプロジェクトに取り組みます.まずはこの5年間でコロイド系や高分子系に有効なマルチスケールシミュレーションの方法を確立し,その後の5年間でこれまでのシミュレーション法では太刀打ちできなかった化学工学や物質科学の種々の問題に挑戦したいと考えています.結果ありきで本質を見失った過度に簡略化したモデルや,安易な近似を盲目的に用いることなく,計算機シミュレーションのフロンティアを少しでも工学的応用の方向に押し進めることが出来れば本望です.

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